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【第1部】 第8話 祖父とヘンリー②

last update Last Updated: 2025-06-11 17:01:47

「いい加減にしろっ!」

 龍がヘンリーの顔を持ち、私からグイッと遠ざける。

 ヘンリーの首がもげそうなほど後ろに曲がっているけど、大丈夫なのだろうか。

「酷いー! 大吾、見た? いつもこうやって龍が僕と流華の邪魔するんだよっ」

 ヘンリーが助けを求めるように、祖父を見つめる。

 大吾? もう呼び捨て。

 そんなに仲良くなったの? しかもいつの間にか龍も呼び捨てだし。

 龍へ視線を向けると、また龍のこめかみに血管が浮き出ている。

「それはいかんなあ。

 異国から来た年下の子をいじめるなんて、男のすることではない。

 龍、ヘンリーにもっと優しくするんじゃ」

 勢いを削がれた龍は、困ったような、複雑そうな表情を浮かべ祖父を見た。

「し、しかし、お嬢に馴れ馴れしくするので。

 昔言われましたよね? お嬢に変な虫がつかないように守れと」

 龍の言葉に私は驚き、祖父と龍を睨みつけた。

 何、それ? 私はそんな話知らない。また二人で勝手に決めて。

 龍に抗議された祖父は、少し考える素振りを見せた。

「ふむ、確かに言ったな。しかし、ヘンリーは悪い虫じゃあない。

 なかなかのイケメンじゃし、王子だし、優しそうだし、なかなか話もできる。

 何より流華を愛しておる。わしのお眼鏡には叶っとるよ」

 その言葉を聞いた龍は、激しくショックを受け、打ちのめされたように跪いた。

 絶句し、下を向いたまま黙り込んでしまう。

 激しく落ち込む龍の背中には、悲壮感が漂っている。

 あまりの龍の憔悴ぶりに、私は何も声をかけられなかった。

 祖父の態度の変化にきっとついていけないのだろう。可哀そうに。

 おじいちゃんは本当に気まぐれなんだから。

 龍のことはしばらくそっとしておこう。

「あのね、おじいちゃん。

 こちらの常識がよくわかってない子を学校へ連れて行ったら、ごちゃごちゃするんじゃないかな。それに、ヘンリーの容姿も目立つし、きっと学校で噂になっちゃうよ」

「いいではないか! 若い時はいろんなことに揉まれて成長するもんじゃ。ヘンリーも、流華も揉まれてこい!」

 豪快に笑い飛ばす祖父に、私は辟易する。

 いや、そりゃ、あなたはいいかもしれないけど、面倒みるのは私なのよ!

 と言いたかったが、言う間もなくヘンリーと祖父は二人で盛り上がってしまっている。

「やったー。明日から流華とずっと一緒だあ!」

「よかったな、ヘンリー。青春してこーいっ」

 もうこうなったら誰にも止められない。

 うちの祖父は、一度決めたことはなかなか覆すことはない。

 盛り上がりを見せるヘンリーと祖父。

 ひっそりと端の方で落ち込んでいる龍。

 そんな三人を尻目に、私は一人、深いため息をつくのだった。

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